本書の基本情報
タイトル: 『ソクラテスの弁明・クリトン』
著者・出版年: プラトン著、久保勉訳/1927年(岩波文庫)
ジャンル・背景: 古代ギリシア哲学、倫理・政治思想の古典
読む前に知っておきたい前提知識
歴史的・思想的背景
紀元前5世紀のアテナイは混乱の時代でした。しかし、この混乱こそが哲学の原点となります。
ペロポネソス戦争の敗北により、民主政が崩壊しました。つまり、社会の価値観が大きく揺らいだのです。そして、この政治的混乱が保守派によるソクラテス告発の背景にあります。
ソクラテスは市民に問いかけ続けました。また、考えることの大切さを説きました。ただし、既存の道徳や宗教を揺るがす存在として恐れられました。
一方で、プラトンはこの裁判を記録しました。なぜなら、正義と理性の重要性を示したかったからです。さらに、「善く生きること」の本質が作品全体の主題となります。
主なキーワードと概念の解説
無知の知
自分が何も知らないと自覚することです。そして、ソクラテスはこれを「知の出発点」と考えました。つまり、謙虚さこそが学びの始まりなのです。
魂の世話(ψυχῆς ἐπιμέλεια)
魂(内面)の善さを育てることです。また、真の幸福はここにあると説きます。たとえば、お金や名誉よりも心の豊かさが大切だということです。
ダイモニオン
ソクラテスの内なる声のことです。さらに、道徳的判断を支える内面の指針でもあります。現代でいう「良心の声」に近い概念です。
エレンコス(反駁法)
質問を通じて相手の矛盾を明らかにする対話法です。そして、この方法により真理に近づこうとしました。
正義と法の尊重
『クリトン』では、国家の法を破るべきではないと語られます。実際に、ソクラテスは「悪法も法」として受け入れます。ただし、この姿勢には議論の余地があります。
『ソクラテスの弁明・クリトン』読書記録|仙人との対話
この本を読んで、私は深い驚きを感じた。
ソクラテスは自分の内なる真実を語り続けた。そして、それゆえに雄弁家とみなされたという。「ソクラテスの言葉に欺かれないよう警戒せよ」と。
つまり、真実を語る者が警戒される存在になったのだ。また、この逆説に現代との共通点を感じた。さらに、「神の御意のままに」と語りながらも国法に従う姿勢に、複雑な思いを抱いた。
【仙人との対話】

無知の知という智慧
探究者:「『知らぬ事を知っているとは思わない限りにおいて、その男よりも智慧の上で少しばかり優っている』という部分が心に残りました。しかし、なんだか引っかかってしまって。」
仙人:「ふむ。それはどうしてかの?」
探究者:「哲学において正解を見つけることは困難です。つまり、知らないことを知っていることで学び続ける姿勢ができるということです。しかし、これって本当に智慧なのでしょうか?」
仙人:「おぬしは『知らない』ことに不安を感じておるのか?」
探究者:「そうです。現代は情報であふれています。そして、すぐに答えを求められる社会です。また、『知らない』と言うことは弱さと見なされがちです。」
仙人:「では、ソクラテスの智慧は現代では通用せぬということかの?」
探究者:「いえ、むしろ逆かもしれません。つまり、情報が多すぎるからこそ必要な姿勢だと思います。さらに、真偽を見極める力が求められている今こそ、『無知の知』が重要なのでしょう。」
内なる声への信頼
探究者:「ソクラテスは『自分のうちに一種の声が聞こえてくる』と語っています。そして、それを神的で超自然的なしるしと呼んでいます。」
仙人:「どのような重なりを感じたのじゃ?」
探究者:「私も時々、内なる声を感じることがあります。しかし、それを信じていいのか迷うことが多いです。また、理性的な判断と感覚的な直感のどちらを優先すべきか悩みます。」
仙人:「すると、この本はおぬしに何を問うておるのじゃ?」
探究者:「『自分の内なる声にどこまで従うべきか』と問いかけられている気がします。つまり、外部の権威と内なる良心が対立した時の選択ということです。」
法と良心の狭間
探究者:「現代でも法律と個人の良心が対立する場面があります。一方で、ソクラテスは『国法に従う』と明言しています。」
仙人:「どのような対比かの?」
探究者:「彼は悪法であっても従うという立場です。そして、これは現代の市民的不服従の考え方と対照的です。しかし、同時に内なる声には絶対的に従っているのです。」
仙人:「では、今のおぬしはどう生きようと思うのじゃ?」
探究者:「法への敬意は持ちつつも、良心との対話は続けたいです。さらに、安易に従うのではなく、常に問い続ける姿勢を大切にしたいと思います。」
【知識の再構築】

本書では「無知の知」という智慧が語られていた。それを自分なりに解釈してみる。つまり、「無知の知とは、学び続けるための謙虚さ」のことと言えるかもしれない。
ソクラテスは神託を受けて賢者を訪ね歩いた。そして、真の賢者がいないことを発見した。しかし、現代的な視点から見ると、これは専門家への盲信への警鐘でもあるだろう。
この考え方を現代に当てはめてみる。たとえば、SNSで拡散される情報を鵜呑みにしない姿勢で活かせそうだ。さらに、権威ある発言でも批判的に検討する習慣も考えられる。
【いま心に残っている問い】

読み終えても、私の中にはこの問いが残っている。
「内なる声と外なる権威が対立した時、どちらを選ぶべきか?」
この問いにすぐに答えは出せない。しかし、次の本や体験のなかで考えていきたいと思う。なぜなら、これは生き方の根幹に関わる問題だからだ。
【結び:読者へ】
この記事を読んでくださったあなたにも、問いが届いていれば嬉しい。
「あなたにとっての『無知の知』とは何ですか?」——プラトンが紀元前4世紀にソクラテスの言葉を記録した。それは現代を生きる私たちにも深く響く。そして、真の学びとは何かを、一緒に考え続けていけたらと思う。
読書時のポイントと注意点
着目すべきテーマ・視点
ソクラテスの哲学的姿勢
彼は真理を求める生き方こそ善い人生だと語ります。また、死をも恐れず倫理に忠実である姿勢に注目しましょう。つまり、信念を貫く強さが描かれています。
法と個人の関係
国家の法律と個人の道徳が対立する場面があります。そして、この葛藤は現代にも通じる重要なテーマです。たとえば、不正な法律に従うべきかという問題です。
問答法による思考の促し
ソクラテスは答えを与えません。むしろ、問いを投げかけます。したがって、読者自身が「自分ならどう答えるか」を考えることが大切です。
初心者がつまずきやすい点と対処法
抽象概念が多く登場します
「徳」「正義」「魂」などは現代語と意味が異なります。しかし、「内面の成熟」「良心」と置き換えると理解しやすくなります。つまり、現代的な言葉で読み替えることが重要です。
対話形式に慣れが必要です
ソクラテスの話は独白のように感じられます。ただし、反論を想定したやり取りが構造に含まれています。そして、相手の存在を意識して読むと理解が深まります。
宗教的な語りにも注意が必要です
神や啓示について語られる場面もあります。しかし、これは比喩的で倫理的な感覚を表しています。したがって、字義通りに解釈せず「良心の声」として読むと違和感が薄れます。
時代背景を補足して読むと効果的です
アテナイの政治体制や裁判制度を事前に調べておきましょう。なぜなら、発言や態度の意味がより明確に理解できるからです。また、現代との違いを意識することで新たな発見があります。
まとめ
この作品は単なる古典ではありません。むしろ、現代を生きる私たちへの問いかけです。そして、「自分で考える力」を育てる最良の教材でもあります。
ソクラテスの姿勢から学ぶことは多いでしょう。また、彼の問答法は現代の議論にも応用できます。さらに、法と個人の関係は永遠のテーマです。
ぜひ、じっくりと向き合って読んでください。
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